キーン文学の原点に迫る
キーン邸の玄関には、立像と座像の2体の芭蕉像が置かれているという。日本文学の研究と伝播に生涯を捧げたキーンは、昭和28年、31歳で念願の日本留学を果たした2年後、芭蕉の「奥の細道」を追体験、「紅毛奥の細道」を発表した。俳句はキーンが日本を知るうえでの重要な原点の1つだったともいえよう。
キーンが日本文学への関心を抱いたのは、ニューヨークの書店で売られていた、アーサー・ウェイリー英訳『源氏物語』を読んだことに始まる。そのウェイリー版からの逆翻訳を試み、ドナルド・キーン賞特別賞を受賞した著者が、キーンの原点を新たな視点で解き明かした渾身の力作が本書である。
キーン生誕100年。不思議な縁で結ばれた本書では、著者はまず「紅毛奥の細道」を辿り、キーンの心象風景を胸に刻むと同時に、その膨大な著作や海外への「ハイク」伝播を検証しながら、日本文学研究に重要な位置を占める俳句への道のりを、丹念に探っていく。
さらに本書では、養子であるキーン誠己氏の全面的な協力を得て、未発表の自作を数多く発見。公表分と併せて全25句を掲載し、作句の背景を解説しながら鑑賞していく。