吉阪以前に、造形文化の深層と深く関わりあう形で、「環境」が論じられることはなく、またアノニマスや生活主体の築きあげた「造形的環境」が、美学的・建築学的・生活学的考察の対象となることはなかった。本書では、これらの洞察から吉阪が「有形学」を構築するプロセスが読みとれるとともに、吉阪が図と文で論及する豊かな事例を学びとることができる。ここには、芸術様式史としての建築の理解や民族学的差異論、自然決定論、発展段階論などの諸論を超えて、人類の環境文化の構造的理解に迫るものがある。