2000年代に入り大きな自然災害が頻発している。こうしたなか、これまでのような土木施設が引き続き必要とされる一方で、地域の環境や景観の面から再考する機運も高まっている。本書は、土木を「自然と人間をつなぐインターフェース」ととらえ、デザインを通して、こうした負のインパクトを減らすだけでなく、自然と人間の新しい関係を構築することを目指す。著者自らが関わった豊富な事例に加え、篠原修の土木デザイン論、内山節の自然哲学、ハイデガーの技術論などをふまえながら、土木をデザインすることの意味と可能性を問う。
【目次】
序章 デクノボーとしての土木
第1章 土木をデザインすること
土木のデザイン/国家の自然観と民衆の自然観/土手の花見/空間的な非自己完結性/時間的な非自己完結性/小戸之橋プロジェクト/土木の神話性/顕われとしての自然災害/天災は忘れた頃にやってくる/上手に思い出すこと/常なることとしての自然観/土木の美/自然と人間をつなぐインターフェース
第2章 大地との格闘―曽木の滝分水路
平成18年7月豪雨/直轄河川激甚災害対策特別緊急事業/多自然川づくり/曽木の滝/脱お化粧デザイン/住民とつくるビジョン/曽木の滝分水路整備方針/景観とコスト/景として考える/見試しとしての施工/施工者の工夫/同時多発であること/分水路の効果/激特事業後の改修/三つの協働/土木デザインとしての分水路
第3章 都市の緑―白川・緑の区間
熊本の白川/森の都/河川法の歴史/アンカーとスターター/緑の区間の整備方針/緑の保全/樹を中心とすること/住民の反応/造園協会との協働/立曳き工法/造園屋の息子/川と街をつなぐ壁/縦割りを超える/小広場のデザイン/石積み護岸/水際のデザイン/ミズベリング白川74/Shirakawa Banks/景観と防災/緑の区間の展開/緑の区間の現在
第4章 コミュニティとともに―熊本地震からの復興
地震、そのとき/前震:2016年4月14日(木)21時26分/本震:2016年4月16日(土)1時25分/熊本地震/地震とオープンスペース/ましきラボ/被災地の風景/ラボの場所/ラボの活動/オープンラボ/ラボとまちづくり/県道の四車線化/益城町に必要な道とは/デザインと合意形成/12の提言/実現に向けて/記憶の継承/震災記念公園とは何か/天然記念物としての断層/小さな土木デザイン/ましきラボの意義
第5章 「開蔵」するデザイン
二つの自然
ハイデガーの技術論への関心/開蔵と真理/挑発としての開蔵/制作(ポイエーシス)としての開蔵/世界と大地
水精の簾/自然(フュシス)の〝顕われ〟としての災害/挑発と制作(ポイエーシス)/労るということ/労動、仕事、活動
普請としての土木
終章 これからに向けて
終わらない自然災害/渡しと橋/三つの交流/流域治水の提示 想像の共同体から実感の共同体へ/流域と自治/表通りとしての川/多層的な時間/石を据えるということ
関連年表 あとがき