人はなぜ旅に出るのか。旅は人に何をもたらすのか。日本の古典文学において、旅は「心の成熟」の過程であった。心になにか欠損をいだいた若者は、旅に出て、旅の中で大きな困難を克服することによってを獲得する。無限の幸福を象徴するを携えて帰郷した若者は、家を構え定住することで大人になる。本書は『伊勢物語』『源氏物語』など古典文学に通底する典型的な話型を分析することによって日本人の心の深層に迫り、文化としての旅のかたちを抽出する。