Netflixシリーズ『The Family』で知られる著者が、暴力や偏見、
不条理に満ちたアメリカやロシア等世界各地の闇に潜む輝きを、
スマホのカメラであざやかに切り取ったフォト+散文集。
夜勤の人々、薬物常習者たち、ヒルビリー、ホームレス、モーテル暮らしの車椅子の女性や同性愛者といった人々から、寂れたよろず屋の品々や看板、アルバムの中の写真や落書き、スマホ上のSNSの画面、入れ墨、事故車、そして“あざやかな闇”。
さまざまな雑誌メディアへの寄稿やNetflixで映像化された『The Family』などで知られるジャーナリストで作家のジェフ・シャーレットが、自らの小さなスマホのカメラ越しに捉え、SNSに投稿し続けてきたコロナ(COVID-19)以前の世界とは?
語り口はパーソナルでありながら、市井の息吹を伝えるジャーナリスティックな視線は、きらきらとした陽光に照らされた人やものより、むしろあざやかな闇の世界の住人へと向かい、いくばくかの逡巡を経ながらも、強い意志と共感をもって対象と、その周辺世界に分け入ってゆく。
自身の故郷アメリカの各地に加え、ロシア、アイルランド、アフリカetc……と多方面にわたった取材、そしてハッシュタグやセルフィ―で飾られたネット空間でのやりとりの記録が、このフォト+散文集ともいうべきスタイルに結実した本作は、エピソードによってはルポでありながら、どこかエッセイのような趣があり、また、一貫して低温でありながらも感情を動かす熱と勇敢さとユーモア、そして独特のリズム感が感じられる。
著者、そしてその父親の心臓発作というパーソナルなエピソードから始まり、老若男女の夜勤の人々や薬物常習者に出会い、警察の暴力によって命を落としたアフリカ系アメリカ人の数奇な運命をたどり、プーチン政権下で命を脅かされながらもがき、抗おうとするロシアの同性愛の若者たちやモーテル暮らしの車椅子の女性と向き合う。
すべてのエピソードは、アメリカをはじめとした世界各地でブラック・ライヴス・マターやコロナ禍、イデオロギーによる分断などが目立った2020年や世界に衝撃を与えたプーチン政権によるウクライナ侵攻(2022年2月~)以前のものだが、ここに集められた著者のテキストと写真は、読者に彼の目で捉えた現実を提示し、予言的な意味合いも感じさせる。
問題だらけの現代社会における、他者と自己、生と死、喜びと哀しみ、光と闇などの境界がいかにあいまいなものなのかを突きつけてくれる1冊。