本書は、財政政策の効果を解明しようとするものである。筆者は過去約十年にわたり、高齢化、ジェンダー平等、労働市場の観点から、財政政策がマクロ経済に与える影響を分析してきた。本書はこれらの研究成果をとりまとめ、財政政策がマクロ経済に与える影響について幅広く検討している。
今、日本では、財政政策の効果を再考することが重要である。
この30年間で、日本の政府債務が膨大な額に膨れ上がっている。国際通貨基金(IMF)によれば、2022年に一般政府の債務残高のGDP比は、政府が保有する資産を考慮しないグロスでは264%、資産を差し引いたネットでも172%と、先進国のなかで突出して高い水準となっている。
日本政府の借金がここまで膨らんでしまったのは、税収を大幅に上回る支出が続いており、その差額を借金、つまり国債発行によって賄っているためである。政府債務の急増は、身の丈を超えた生活が続いてきた結果であり、その背後には、バブル経済崩壊後の経済の長期停滞による税収減少、高齢化の進展による社会保障費の増加、そして、コロナ危機などの経済危機への対策として財政出動が影響している。
こうした中、日本の債務の持続可能性を懸念する声は多い。これまでも、日本の債務が長期的には維持できないとする研究は数多く存在していた。幸いにも、財政危機は起こっていないが、それは現在の日本の債務が維持可能であることを意味しているわけではない。過去の国際事例を見ても、財政危機は突然訪れるため、注意が必要である。
財政危機を回避できたとしても、政府が巨額の債務を抱えていること自体が問題である。現在の日本の国家予算では、約3分の1が国債発行によるもので、歳出の約4分の1が国債の元利払い、約3分の1が社会保障費に充てられている。高齢化が進む日本では、今後も社会保障費の増加が見込まれるが、国の借金が増え続ければ、国債費はさらに増加、教育や公共投資などに政策資金を回すことが困難になる。これは将来世代にとって大きなマイナスである。
もっとも、国が借金をすること自体は必ずしも悪いことではない。国家運営において、借金が必要になるケースは少なくない。インフラ整備や教育投資など、将来の国家発展につながる借金は必ずしも悪いものとはいえない。また、不況時に経済を支えるために財政出動を行い、一時的に財政赤字に転じることは、財政政策の基本的でもある。
ただし、こうした支出をするためにも、中期的に政府債務を下降軌道にのせ、財政の安定化を図ることが重要であり、同時に支出内容の見直しが不可欠である。つまり、「賢い投資」(ワイズ・スペンディング)が重要である。そのためにも、財政政策の効果を深く理解することが必要である。