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映画批評 MIRAGE 創刊号 2010秋

映画批評誌「MIRAGE」創刊にあたって  「映画について書くことは、すでに映画を撮ることと同じだ」と言ったのは、かのジャン=リュック・ゴダールであったが、彼が現在に至るまで過激かつ孤独に映画を撮り続けてきたのと同じ情熱を注ぎながら、かつて批評家として活動してきたことを知るわれわれは、このゴダールの言葉を前に、 批評が持つ力について理解せずにはいられない。映画が引用によって形成されるテクストであるならば、(見ることで) 批評を書くことと、映画を撮ることに本質的な差異はないということ。誰もがまだ見ぬ映像を見据え、それをかつて見られた映像と接続することで可視化させようとする行為。 そして、書くことと撮ることの絡み合う引用によって紡がれていく幾つもの映画史….....。  一方で、この言葉をゴダールが発したものであるというコンテクストからいったん引き剥がし、言葉それ自体の意味について恐れることなく自由に考えること、それもまた(批評的行為によって! )可能である。例えば、映画を解体・再構成して光と影の中に再び呼び覚ます作業が、まさに映画を撮る行為の反復であると気付くこと。また、そこに何かがあるからそれを映画として撮るように、映画がそこにあるからこそ批評を書くのだと感覚的に理解するように。  こうして冒頭の言葉をめぐって、批評について二つのことがいえるだろう。一つは、映画との不可分な関係を維持し続けるために必要とされるであろう繊細さ。もう一つは、映画が開かれたものであるとして、そこに我々が語りえてこなかった様々な可能性を示そうとする大胆さ。この繊細さと大胆さを持ち合わせてはじめて批評は批評となるだろう。  そのような定義を出発地として深く刻みつけた上で、あらためて映画批評を試みようとする者達に対して常に開かれた場所を作ること。そして、その場所を起点として新たな映画批評言説の空間が立ちあがり、拡大していくことへの期待。それが 「MIRA GE」創刊の理念と目的である。そのためには、論じる対象である映画が反=物質的存在であるがゆえに、こうして紙媒体の雑誌という物質性を選択することによって、少なくとも我々は確実な 肉体を持つ必要性があると考えた。  "MIRAGE"とは蜃気楼・幻想を意味し、すなわちそれは映画のことである。 しかし、ラテン語の「(鏡で)見る」という意が語源でもあるこの"MIRAGE"は、映画を見ることで求めていたはずの自身の鏡像を、その圧倒的な蜃気楼の前にいともたやすく見失った経験のあるわれわれをも意味するだろう。 「MIRAGE」は、そうした映画と映画に惹かれた者達の不断の戯れの意としてあり続けることをささやかな願いとしたい。

 最後に創刊号である本誌を、かつて一映画館の支配人として日本映画の全盛期に携わり、映画を愛してやまなかった、今は亡き祖父に捧げたい。 編集長 藤原遼太郎

発行日 2010年10月22日 発行 MIRAGE 製作委員会 製本・印刷所 株式会社イニュニック 発行人・編集長 藤原遼太郎 編集協力 慶野優太郎、岩井信行、井上遊介 表紙デザイン・写真 井上遊介 第2号 1月刊行予定

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