この本は、日本の医療のサステナビリティ(持続可能性)について、現場と仕組みの両方から問題を見て取り、建設的な提案をしようと試みます。今、日本では医療費の増大に歯止めがかからないため、このままの医療体制はもう保てない状況です。医療費は、保険組合と公費によってまかなわれるので、結局は保険料の値上げと増税が続きます。しかし、今、少子高齢化が進み、国家財政があやぶまれる中で、若い世代、働く世代がその財源を支え続けるのは現実的ではありません。医療と介護の「2025年問題」も目の前にあります。これからも日本の医療を持続可能にするためには、過剰な医療を削り、制度を改革して医療費を減らす必要があります。具体的には、高齢者への侵襲的治療(手術など、お金のかかる治療)をぐっと減らし、保険診療の認可についても見直すのがよいでしょう。高度で高額な医療については保険診療から外し、10割の自己負担を求める「混合診療」も検討すべきと考えます。また、医療のセーフティネット(全国民が安全に守られる基本的な医療)を確保するため、イギリスのような「家庭医」制度を導入すること、さらに病院経営に公的なやり方(資本主義の競争原理とは別に、自治体が管理・監督する)を一部、導入することを提案します。これによって、基本的な医療をこれからも守れるのではないでしょうか。さらに、死生観を見直すことも大切です。今、医療の現場では「みんな、一日でも長生きするのがよい」という考え方が支配的です。しかし、人は老いて死ぬこと、また、次世代に命を引き継ぎ、世代交代することを真剣に考える時です。命や生き方について、個人でも家族の中でも公共の場でも、もっと考えて話し合うことが日本の医療のサステナビリティにじかに関わってくると思われます。