気仙沼のリアス・アーク美術館には、東日本大震災の「被災物」が展示されている。
2019年、この展示に出会った姜信子は、「被災物」に応答すべく、
大阪で「被災物」をモノ語るワークショップを始めた。
傷ついたモノを前に、人は思わず記憶の底の声を語りだす。
モノに宿された記憶は、語りなおしを通して、命をつなぐ。
路傍の地蔵や道祖神の謂れのように。
亡き娘のぬいぐるみ、携帯電話の声、山の供養塔、寄り物と漁師の思想、
第五福竜丸事件、東京電力福島第一原発事故による汚染処理水の海洋投棄……
本書は、「復興」の物語からはみだす、小さな〈モノ語り〉の記録であり、
他者の記憶の継承という問いに対する、真摯な応答の記録である。
当事者/非当事者の境界を越えて、命の記憶を語りつぐために。
カラー32頁。志賀理江子の撮り下ろし新作未発表写真16頁を付す。