これは「わたしのもの」ではなかったのだろうか。調査地でのある出来事から、私的所有の感覚がゆらぐ経験をした著者は、所有への違和感を抱きつつエチオピアの農村へ向かう。畑を耕す牛、畑になる穀物、台所道具、生活する人々など、ミクロなものに目を向けて調査していくなかで見えてきたものとは? 作物は頻繁に分配され、持てる人から貧しい人に与えられる。土地を所有することと利用することの関係。国家による「土地」のコントロール。様々な角度から私的所有をめぐる謎を掘り下げていく。気鋭の文化人類学者による鮮烈なデビュー作。
たびたび日本とエチオピアを往復するうちに、私自身がしだいにデータをとるための「調査」という型から解き放たれていくようになった。村人とともに日々を過ごす。そんな時間が積み重なっていくと、何かをこちらの尺度から「調べる」のではなく、人びとの暮らしのささやかな営みに目が向きはじめる。・・・・・・気がついてみれば、村の生活のありとあらゆるモノが、この「所有」という問いとつながっていた。【はじめに】より
【目次】
はじめに―「わたしのもの」のゆらぎ
第1章 所有と分配の人類学
第2章 多民族化する農村社会
第Ⅰ部 富をめぐる攻防
第3章 土地から生み出される富のゆくえ
第4章 富を動かす「おそれ」の力
第5章 分配の相互行為
第6章 所有と分配の力学
第Ⅱ部 行為としての所有
第7章 土地の「利用」が「所有」をつくる
第8章 選ばれる分配関係
第9章 せめぎあう所有と分配
第Ⅲ部 歴史が生み出す場の力
第10章 国家の所有と対峙する
第11章 国家の記憶と空間の再構築
第12章 歴史の力
第13章 所有を支える力学