舞台は明治末から大正の頃の東京。主人公は身寄りのない娘おくみ。ことさらに劇的な展開があるわけではない。おくみは恋をする。しかし恋ともいえぬ淡いものである。ここに登場する人々の暮しぶり、立居振舞、会話、すべて時はゆるやかに優しく流れる。のち童話作家に転換する小説家鈴木三重吉(1882‐1936)の代表作。