幽晦との境界が――破れている。内部の薄明が昏黒に洩れている。ならばそこから夜が染みて来る。生まれてこのかた笑ったこともない生真面目な浪人、伊右衛門。疱瘡を病み顔崩れても凛として正しさを失わない女、岩――四谷怪談を江戸の闇に花開く極限の愛の物語へと昇華させた第25回泉鏡花文学賞受賞作。「巷説百物語」シリーズ・御行の又市の物語はここから始まった。〈解説〉高田衛〈対談〉高田衛×京極夏彦「生きている怪談」