生後三か月で琵琶湖のほとりにある村井さんちにやってきたのは、とにかくやんちゃで甘えん坊な黒ラブのハリー。双子の息子たちとじゃれあいながらみるみる巨大化し、走るすがたは恵方巻に似ている。「みっしりと生えた黒い毛。長くて固いヒゲ。大きな鼻、口、そして耳。柔らかくて、ふわふわで、まるで巨大なぬいぐるみだ。こんなに穏やかでやさしい生き物がわが家にいて、私の横に寝ているなんて、夢のようだ」。かけがえのない日々をとじこめたイケワンまみれのエッセイ集。
「私の心を覆い尽くしていた黒くて濃い霧のような不安感は、ハリーが、あの大きな体の中に、すべてあっという間に吸い込んでくれた。静かな部屋でハリーと一緒に座っていると、自分の心の中が晴れていくのを感じることができる。今、私の心の中に広がる爽やかな青空は、ハリーがもたらしてくれたものだ。私が手を伸ばすと、ハリーは前脚をその手にそっと重ねてくれる。私が呼ぶと、必ず側に来てくれる。」(本文より)
装画 おざわさよこ
カバーデザイン 藤井遥