■2016年も、ビール類市場でシェアNo.1となったアサヒビール。主力商品の「スーパードライ」は、1987年の発売以来ドライビールの先駆けとして盤石の地位を誇り、長らく不動のトップだった。
しかしこれは同時に、アサヒが30年間たった一つのヒット商品に依存し続けてしまったことも意味している。
■80年代半ば、アサヒは経営破綻の危機に直面していた。これを救ったのがスーパードライの大ヒットで、01年にはついに半世紀近く業界トップだったキリンを抜いてリーディングカンパニーとなる。
ところが、スーパードライはアサヒにとっての「聖域」になっていった。経営資源の多くはスーパードライのみに集中してしまい、このためか、競争が激しいビール類市場の首位でありながら、30年近くもめぼしい新規ヒット商品がないという事態に陥っていたのである。
■しかし、少子高齢化が急速に進み、酒類をめぐる市場環境も縮小するなかで、アサヒはいま大規模な変革を進めている。ビールからRTD、スピリッツ、ワインまであらゆる分野で新商品を打ち出し、全社一丸となって、「スーパードライ」一辺倒ではない新たな会社に脱皮しようとしているのだ。
本書は、開発や営業からマーケティングの現場まで、さまざまな人のインタビューを豊富に交えながら、その変革の模様を生き生きと描く。
アサヒに限らず、過去の「成功体験」にとらわれ、「聖域」が存在する企業は多い。それらとどのように向き合い、どう乗り越えていけばよいのか、アサヒという一企業を通してそのヒントを提示する。