• Author関満博
  • Publisher新評論
  • ISBN9784794809704
  • Publish Date2014年5月

6次産業化と中山間地域 / 日本の未来を先取る高知地域産業の挑戦

高知県は東西に長く、また北側には急峻な四国山地が迫っている。中山間地域の農村問題を専門とする社会学者の大野晃氏が言い始めた「限界集落」という言葉も、この高知の山間地から生まれたものである。高知県は、人口減少、高齢化、さらに中山間地域の限界集落化、都会の限界団地化など、日本の今後の経済社会の基本となる課題の先端に位置している。高齢化率は2012年3月末には28・97%に達し、秋田県、島根県に次いでいる。  県内部をみると、高知市に人口の約45%が集中するという現象が起きており、周辺との格差が拡がっている。また、最近のマクロ経済指標をみると、経済力の基本指標である「一人当たりの県民所得」と「製造品出荷額」は全国都道府県中で最下位となっている。しかも、ハウス栽培による「野菜王国」といわれ、農水産物を大量に移出している反面、加工食品を大量に移入しているという事実があり、高知県の地域産業のあり方が問われることにもなった。  だが、高知の中山間地域や漁業地域の人びとの暮らしと産業の「現場」に接すると、意外な思いを深めることになる。農産物直売所には新鮮な野菜や鮮魚、加工品が並び、人びとは買い物を楽しんでいる。また、中山間地域の限界集落周辺では庭先集荷の軽トラックが行き交い、女性たちが主体となって一次産品加工、地産地消のレストラン、農家・漁家民宿・民泊などが開始されている。主として6次産業化をめぐって、人びとが活き活きと動き始めているのである。  今、成熟社会・高齢社会に突入した日本では、「暮らし」をめぐる環境の劇的な変化にともない、働き方や価値観、地域産業のあり方も大きく変わりつつある。辺境の条件不利地域としての高知には、むしろ、そのような日本全体の問題が先鋭的に現れている。高知が置かれている構造条件を見きわめ、それを私たちの将来を映し出す「先端の場」として受け止め、新たな一歩を踏み出していくことが求められているように思う。(せき・みつひろ)

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