三番目の妻・松子とその妹・重子を傍に置きながら、重子の義理の息子の嫁・千萬子を寵愛した谷崎潤一郎。女たちの嫉妬と葛藤が渦巻くなか、それに翻弄される自分自身の姿までも創作の糧とした文豪の尽きせぬ「業」を、作家・桐野夏生がさらに新たな小説へと昇華させる。晩年の谷崎潤一郎と女性たちが一つ屋根の下で繰り広げた四角関係をスキャンダラスに描く。気に入った女たちを周囲に侍らせ、観察するという「男の夢」の完成と崩壊は、好評だった最新刊『猿の見る夢』とつながるテーマ。また、女性の一人語りで展開される濃密な物語はヒット作『グロテスク』にも通じるところがあり、桐野氏の新たな代表作として広く手にとってほしい。