音声や画像のパターン認識、ゲノム情報の解析などさまざまな分野への統計科学の展開は、それを支える理論にも新しい見方を要求している。なかでも、有限混合モデル、ARMAモデル、変化点モデル、ニューラルネットワークなど、従来「非正則モデル」とよばれてきたクラスに属する複雑なモデルの研究が、新たな注目を集めている。本書では、これらを「特異モデル」と名づけ、その多様な性質を理解するための統一的視点を提示する。豊富な例を紹介することから出発して、それらを統一的に扱う「接錐」による方法論を展開し、ゲノム解析や薬効比較で用いられるモデルの応用も含めて論じる。また、特異モデルにおける最尤推定の性質を幾何学的に解明する「チューブ法」を系統的に解説し、無限次元のモデルに及ぶ。さらに統計的推測理論について、広い理論的視野からの眺望を与える補論2篇を付す。新しい分野の礎を築く画期的な1冊。