一生を通じて現実生活の苦しみに苛まれ続けたギッシングにとって、わずかな慰安は少年時代から古典文学を通して憧れていた古代文明の故郷ギリシャとイタリアであった。1897年、1ヵ月ほど滞在した南イタリアでの見聞を記したこの作品は、著者唯一の紀行文で、旅を栖とする作家の本領が最もよく発揮されている。