26歳で渡仏、絵を燃やして暖をとる貧しい修業生活を経て、神秘的な「乳白色の肌」の裸婦像が絶賛を浴びる“エコール・ド・パリ”時代の栄光。一方故国日本では絵の正当な評価を得られぬ煩悶と失意から、やがてフランスに帰化、異郷に没した藤田。本書は1940年以前に書かれた随筆から、厚いベールに包まれた画家の芸術と人生を明かす作品を精選、さらに未発表の貴重な2作を発掘収録する。
近藤史人
藤田嗣治ほど栄光と挫折の間を行き来する起伏に富んだ生涯を送った日本人画家はいないだろう。エコール・ド・パリという舞台への華やかな登場。画風をがらりと変えて打ち込んだ戦争記録画。そして戦後の失意。(略)藤田は、明治の知識人がそうであったように、生涯を通して日本人としてのアイデンティティーを求め続けていたのではないか、と思う。にもかかわらず、フランスへの帰化という苦渋の選択をせざるを得なかった藤田の失意と哀しみ。その前では、この国の明治以降の近代化の歴史も、戦後のめざましい復興も、色褪せて見えるのである。――<「解説」より>