千年前、西洋からシルクロードを渡ってきたユダヤ人は、東洋の京で中国人になった。地中海のへりから旅立ち、いくつもの砂漠を経て、一つの国にしばらくたたずんでから、またもう一つの国に向って、渡り歩いて、そして住みついた。渡ってきては、なった。李となった。趙となった。ここまで渡ってきたのだから、さらにこちらから遠くない海を越えてもしかしたら日本へ…次の路地から、とつぜん、大勢の声が聞こえてきた。「老外!」という、いくつもの高さの声が、同時に石の塀と塀の間でこだました。"名前"という謎を抱えてアメリカから日本、そして中国へ。国境を越え歴史を遡る、新たなアイデンティティの旅が始まった。いま最も注目すべき日本語作家・リービ英雄の最新傑作。