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  • 著者浜田寿美男
  • 出版社講談社
  • ISBN9784062586276
  • 発行2016年5月

もうひとつの「帝銀事件」 / 二十回目の再審請求「鑑定書」

本書では帝銀事件の「犯人」とされる平沢貞通が、無実なのに虚偽自白に落ちたという無実仮説、また目撃者たちも平沢を見て、「犯人と似ている」とか、「犯人だと断定する」という目撃過誤を犯したという無実仮説を提起する。もし自白と目撃について、この仮説が心理学的に成り立つとすれば、そのこと自体が検察側の有罪仮説への「合理的疑い」となるはずである。本書では、こうした戦略で目撃と自白の供述鑑定を進める。
本書は2015年11月24日、帝銀事件の20回目となる再審請求にあたって提出された鑑定書「帝銀事件における目撃供述および自白供述の心理学的分析」の「鑑定本文」を再編集し、書籍化したものです。
……もし平沢が無実ならば、先に見てきたように、帝銀事件とはまったく別のところで、無実の平沢が犯人とまちがわれ、捕らわれ、自白させられ、起訴された後、無実が認められないままに死刑が確定して、長い獄中生活の果てに獄死したという冤罪事件が起こっていたことになる。ここに、平沢が無実でありながら虚偽自白に落ちたという無実仮説が提起されるし、目撃についても、「帝銀事件」の目撃者たちがその無実の平沢を見て、「犯人と似ている」とか、「犯人だと断定する」という目撃過誤を犯したという無実仮説が提起される。
 もし自白と目撃について、この無実仮説が心理学的に成り立つとすれば、そのこと自体が検察側の有罪仮説への「合理的疑い」となるはずである。本書では、こうした戦略で目撃と自白の供述鑑定を進めることになる。つまり、通常の裁判での片面的検証にたいして、有罪仮説-無実仮説を立てて、そのどちらの仮説がよりよく目撃・自白の全データを説明するかという鑑定で、いわば両面的検証をおこなう。
 ここで、もし有罪仮説の説明力のほうが高いということになれば、目撃者の供述過程は「当初、正確に特定できなかったけれども、やがて平沢を真犯人として正しく射当てていった過程」だということになるし、平沢の自白過程は「真犯人が取り調べのはじめは嘘で否認していたけれども、やがて真の自白に落ちて犯行を語り、裁判ではまた嘘の否認に転じた過程」だということになる。そうなれば、本件の確定判決の正しさが再確認される。
 しかし逆に、もし無実仮説の説明力のほうが高いということになれば、目撃者の供述過程は、「事情聴取がくりかえされていくなかで無実の平沢を真犯人とまちがえていった誤謬の過程」であり、自白過程は「無実の平沢が疑われ取り調べられて、最初は真の否認をしていたのに、やがて嘘の自白に落ちて、犯行の筋書きを語り、裁判では思いなおしてふたたび真の否認に転じた過程」だったことになる。もしそのことが証明されれば、じつは、その自白過程や目撃供述過程そのものが「無実証拠」として浮かびあがることになる。(本文より)

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