万葉集が庶民の素朴な生活感情を歌っているとする通説は、実は疑わしい。方言で詠まれた歌がほとんどないことでも分るように、その成立は宮廷が政治的に形成されていく過程と切り離せないのである。著者は近代的感性を安易にあてはめる古典解釈を斥け、村落共同体に発生した神謡に歌の始源を探り、万葉集の表現構造を精緻に分析して、日本の古代世界像を構築する。万葉学に新しい地平を拓く意欲作。