逗子なぎさホテルを舞台に綴った自伝的随想
「私が作家として何らかの仕事を続けられて来たのは、あのホテルで過ごした時間のお陰ではなかったか、と思うことがある」~伊集院氏が作家としてデビューする前から数年間にわたり暮らしていた伝説の「逗子なぎさホテル」。湘南海岸に建ち、クラシックホテルとして名高かった名門ホテルも、平成元年に幕を閉じ、いまは跡形もない。東京での生活に疲れ、人生に絶望した時、ふとしたきっかけでこのホテルに住むことになった私。そのいきさつから、作家デビューしていく過程、宿泊代を取らずに支えてくれたI支配人のこと、ホテルで出逢った不思議な女性や人々との心温まる交流など、作家を生業としていくまでの苦悩や青春の日々が綴られている。全てを静かに受け入れてくれるホテルを舞台に「夢のような時間」の中で若き日の私が感じたものは何だったのか。これまで描かれることのなかった青春の日々、彷徨しながらも大人の男へと歩んでいくひとりの青年の姿が、鮮やかに浮かびあがってくる。以前から交流のあった写真家・宮澤正明氏がホテル取り壊し直前に撮影していたモノクロームの秘蔵写真をふんだんに織り交ぜながら、まさに幻の「夢の中のホテル」が時代を超えて蘇る。
【編集担当からのおすすめ情報】
自伝的小説「いねむり先生」に描かれた時代より前の、苦悩する青春の日々を綴った作品です。「どうしようもないもの」を抱えながらも生きる若者を家族のように温かく受け入れ、見守ってくれた「夢の中のホテル」。そこで何に出逢い、何を感じていたのか。作家・伊集院静の原点を知るための必読書です。