小学館ノンフィクション大賞紛糾の問題作!
2015年3月9日、当時36才。私は、男性器を摘出した。
「女になった」と言わない理由は、この選択が女性になるためじゃなく、自分になるためのものだったから。だから私は、豊胸も造膣もしないことを選んだ。
「性同一性障害」という言葉が浸透して、「性はグラデーション。この世は単純に男と女には分けられない」と多くの人が理解する時代にはなったかもしれない。けれども私は自分の性別を、男にも、女にも、二つのグラデーションの中にも見つけることができなかった。
男であれず、女になれない。
セクシャリティが原因でイジメにあったことはない。事実はその逆でみんな優しかった。でも、男子クラスになったことを機会に私は高校を中退した。
女性を愛する男性に命がけの恋をして、葛藤し、苦悩して、半死半生の状態に陥ったこともあった。ひたすらに自己否定を繰り返したりもしたけれど、周囲の誰もが私を一生懸命に支えてくれた。
そして社会人である今、多くの人が愛情と親しみを込めて私を「しんぺいちゃん」と呼ぶ。
これは、人生に同性も異性も見つけることができなかった一人の人間が、自らの“性”を探し続ける、ある種の冒険記です。
【編集担当からのおすすめ情報】
第23回小学館ノンフィクション大賞に、まさかの「自分自身を取材したノンフィクション」が送られてきました。
選考会では、「これはノンフィクションといえるのか」「第三者への取材を行なうべきではないか」など、さまざまな意見がでましたが、選考委員の感想に共通したのはただひとつ。
「それでも、この作品は面白い」
小学館ノンフィクション大賞を紛糾させた異例の”自伝的ノンフィクション”は、「性自認」だけが話題の中心ではありません。
どうしてもその道を選ばざるをえない、多くの「マイノリティ」の心の支えとなるはずです。