芸人の世界に必要なのものって何だと思う?
僕――鳴雲俊史は悩んでいた。
投げかけられた質問には、いったいどう答えるのが正解なのだろうか。
「あの――」
「なんだい? 何も思いつきませんでしたという敗北宣言を高らかに発してくれるのかい? それならそれでこちらは違う形とはいえ大爆笑するよ。だって君はこんな質問に関してまで逃げ出すということになるわけだからね。桂小五郎は逃げの小五郎なんて言われていたけど、それは喧嘩をする場面じゃないと判断した時逃げるということだよ。君のそれとは全く趣旨が違うって事を判断してて欲しいんだけどね」
この先輩、なんでこんな一瞬で悪口が頭に思い浮かぶんだろう……
間違いなくこれも才能だ。やはり頭の回転がとんでもなく早い。
これが売れている芸人の思考か。
「もう一度聞くよ。君はこの世界に必要な唯一のものって何だと思う?」
先輩は無邪気な子供のような笑顔を見せた。今日の会話の中でとびきり純粋な。しかし僕にとってはそれは無慈悲で残酷な表情。
「それがわからないなら、芸人を辞めてもらうよ」
売れている芸人と売れていない芸人の違いはなんなのか――。
テレビなどでも活躍中のお笑いコンビ『天津』の向が綴るリアル芸人物語の第二巻。