仏道に徹しきれなかった歌人という従来の西行像を本書は斥ける。密教でいう虚空は存在するものの真のすがたをさすが、そのグローバルな虚空空間に出現するローカルな風景を日本語で歌い融合すること、それが西行の求めた「道」であった。この「空間と言語の思想」は、晩年、和歌によって仏教を空間化する革新的な神仏習合の思想へと展開した。そのように著者は明快に論証していく。空間の豊かさと西行像を問い直す力作。