私たちは日々、このように生きたいとか、こうありたいと思うが、心は脳のような実体がなく、なぜそう願うのか、取り出すことはできなかった。しかし、フロイトは過去の欲望に規定された「無意識」を発見することで、心がエロスや自己承認の欲望によって駆り立てられる存在であることを明らかにした。現在では、汎性欲説やエディプス・コンプレックスなど、誰もが承認できる理論とは言い難く、また実証不可能な仮説群であり、治療論としては時代遅れとされている。しかし、哲学が知的営みによってある世界理解を打ち立てたように、フロイト思想は一つの決定的な人間学を二十世紀思想として打ち立てた。現象学の本質観取によってフロイトから人間学としての本質を引き出し、現代思想に影響を与え続ける優れた思想としてフロイトを読み直す。