私たちが慣れ親しんでいる近代の時間秩序は、どのようにして誕生したのか。このテーマに分け入るのは、著者によれば、巨大なパズルを組み立てるような試みだった。膨大な研究の蓄積にもかかわらず、真相が突きとめられていない機械時計の発達の歴史。ヨーロッパ各地の文書庫に眠る、都市の公共時計や時計師にかんする無数の資料。近代の時間秩序をもたらした担い手を、あるいは修道院に、あるいは商人たちに求める種々の仮説。著者は、歴史家としての構想力と実証精神をもって無数の事実をつなぎあわせながら、中世から近代へと向かう社会のなかで、さまざまな人間集団が「時間」とのつきあい方をどのように変えていったのかを、生き生きとよみがえらせていく。読者は、中世のおもかげを残すヨーロッパの都市のあちこちから、「時間の歴史」がきざまれた鐘の音が聞こえてくるような思いにとらわれるにちがいない。