東京湾で魚がとれるって、本当?誰しもが一様に疑問をもつ。ところが、魚、ノリ、アサリなど、水産千葉県の水揚げ高の約3分の1が東京湾であげられているのだ。この本は、江戸時代から幕府の御菜浦として栄えた、東京湾の湾奥に位置する船橋漁港の巻網船「大平丸」の2代にわたる沖合(漁撈長)大野敏夫・一敏親子が語り下した、大正末から現在に至る東京湾漁業の記録である。ウタセが浮かび、アグリが繰り広げた父親の海、戦前の東京湾。そして息子の、自然採苗によるノリづくり、網漁師として鍛えられ、沖合になるまでの海をおぼえた日々。春のボラ漁に始まり、夏のスズキ漁、秋のイワシ漁で終わる現在の巻網の1年-。どの章をとっても、自然と結びついた漁業が独自の文化をつくりあげてきたことがよくわかり、海を通しての「仕事の唄」が聞えてくる。最後に、埋め立てという名の「開発」が、漁業にとって、湾岸2000万市民にとって、どんな意味をもっているかを静かに考察したユニークで秀れた東京湾の好著である。