平家には、もう明日はなかった。さかまく渦潮におのれの影を見るごとく、壇ノ浦に一門の危機感がみなぎる。寿永4年3月24日の朝、敵味方のどよめきのうちに戦は始まった。だが、単なる海戦ではない。海峡の戦である。独特の潮相と風位の戦である。潮をあやつり、波に乗るもの、義経か知盛か。その夜の星影も見ず、平家は波騒に消えた。波に底にも都の候う、との耽美的な一語を残して。講談社創業80周年記念出版。