昭和19年、巡洋艦「阿武隈」の機関兵が、小樽郊外の山中で「飢餓ニ因ル心臓衰弱」で死亡した。上陸中に艦が緊急出港したため、とり残されたともいう。しかし彼はなぜそのような事態を迎えねばならなかったのか。長い歳月を経て、一片の記録から真相の追及を始めた男の前に、驚くべき事実が明らかになってゆく。…表題作以下、解きがたい謎を秘めた人の生の奇妙な一面を、みごとに掬い上げ文学作品に結実させた香り高い7篇。