わびしく簡素なたたずまい、領地を与えるしらせに一喜一憂するまずしい絵師とその家族-絵巻『絵師草紙』は絵師が領地をめぐる窮状を、絵と詞に託して訴えるという体裁をとっている。しかし、この絵は生々しい実感に富む反面、どこまで事実に即した情景なのかは容易に判断できない。本書は『絵師草紙』を読み解く作業の中で作者像を明らかにし、絵だけではないことばとの交流を通して、新しい史料としての絵巻の活用を試みる。