• 著者大井玄
  • 出版社みすず書房
  • ISBN9784622086680
  • 発行2018年4月

老年という海をゆく / 看取り医の回想とこれから

「老年期を歩むのは、海図のない海を行くのに似ている。
半世紀以上も前、舳先をそろえるようにして出航したのに、やがて別々に進路を変えて進むことになった。なぎの海、波頭が白く砕ける荒海を進み、赤い夕日が沈んだり、きらめく日輪が上るのをくり返し見ているうちに、かつての僚船が難破したり、沈没したりしたとの報が、ポツリポツリと届く」。
著者は1935年生まれ。公衆衛生学者として水俣病やエイズの研究、アラル海やブータンでの健康調査などを経て、国立環境研究所では地球環境の研究に携わる科学者たちを指導し、また内科臨床医として終末期医療や認知症に取り組んできた。
看取り医としての長年の経験を振り返りながら、みずからの老いへの自覚も踏まえて、人間の生老病死に思索をめぐらす。アルツハイマー型認知症は病気ではなく、老耄の現れである。認知症患者はがん疼痛を訴えない。生存の満足度は加齢とともに上昇する。わたしたちは「死んだらそれきり」ではない。老耄はおだやかに死ぬために自然が用意してくれた恵みである。
超高齢社会を迎えるにあたって指針にしたい知見の数々。悲喜こもごも、慰めにみちた人生賛歌である。

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