その日も浅見光彦は居候のつらさをたっぷりと味わっていた。母親の雪江未亡人は、自分宛に来た陶芸展の招待状を、会場が高層のホテルだからという理由だけで浅見に押しつけたのだ。うんざりしながら出かけた高名な陶芸家佐橋登陽の個展会場で、浅見は登陽と二人の息子、季王朝の佳人もかくやと思わせる美女・久子、評論家で大学教授の景山秀太郎と会った。ところが、翌日、景山が同じホテルでナイフで胸を刺されて殺され、死体上には黄色い砂がまかれていたという知らせが浅見家に届いた。事件にかかわった浅見は、景山の残した「佐用姫の…」のメモに導かれ、登陽と久子の住む佐賀県の有田へ向かった。浅見の到着をまっていたかのように、有田に近い玄海灘の洞窟の中で、景山と親しい陶芸家草場完治の水死体が発見された。しかもこの事件には久子の出生の秘密もからんでいるらしい。詩情豊かに描く本格ミステリー。