人目を忍んだ逢い引きも、長屋の小倅、茶化して困る。惚れた腫れたと馬鹿にゃするが、こちとら、惚れりゃあ命がけ。駆け落ちしましょか、心中しよか。喰うにも困る貧乏暮らし、あんたとならば、苦にゃなりません、泣かせる科白の一つも聞けば、十万億土も鼻歌引っかけ、弁当片手に行ってくらぁ…。純情で、苛烈だった時代の喜怒哀楽を現代の短編の名手が紡き出す24の市井人情譚。