神田明神下に住む通いの摺師・安次郎。寡黙ながら実直で練達な職人の彼に、おまんまの喰いっぱぐれの心配がないと、ついた二つ名は「おまんまの安」。そんな中、安次郎を兄と慕う兄弟弟子の直助が、様々な問題を持ち込んでくる。複雑に絡み合い薄れてしまった親子の絆、思い違いから確執を生んでしまった兄弟など…安次郎は否応なしに関わっていくことに-。五つの摺りの技法を軸に、人々が抱え込む淀んだ心の闇を、澄み切った色へと染めていく。連作短篇時代小説、待望の文庫化。