• 著者カベルナリア吉田
  • 出版社彩流社
  • ISBN9784779114595
  • 発行2009年8月

ひたすら歩いた沖縄みちばた紀行

「車を降りて、歩こう」――
大通りの裏側で遭遇した、まだ見ぬ沖縄、
突拍子もないできごと。
みせかけのトロピカルではない、
ふつーのウチナーンチュにこそ
想定外のおもしろさ、知恵、発想、
思いやり、光と陰がある
■■プロローグより
――那覇港、そして西町から
「ファースト回れ回れ回れーっ!」
 夏のような日差しが注ぐ、9月の終わり。午後4時。倉庫の角を曲がると、野球少年の雄叫びが耳に飛び込んできた。那覇港近くの西町で、復帰前後からある安宿を訪ねる。1泊1000円台。案内された部屋は半地下の一角にあり、四畳半にパイプベッドが2つ。窓を開けると目の高さに地面が広がり、野球少年たちの足が右から左へ駆けていくのがよく見える。
 扇風機のスイッチを入れ、ベッドに腰掛けて一息。……プッ。扇風機が音もなく止まる。思わず廊下に出ると、ほかの部屋の住人たちも何事かと姿を現す。正面の部屋の住人はドレッドヘアの黒人。「こんにちは」と言うと「コニチハ」と片言で挨拶が返ってきた。笑顔はない。
「何か大きな電気のスイッチ、入れました?」
 主人がキョトンとした顔で聞く。原因は僕の扇風機? そんな馬鹿な。ほどなく電気は戻り、住人たちはそれぞれの部屋に引っ込み、野球少年の声だけがいつまでも聞こえていた。
 沖縄のすべての有人島をめぐり、ゲストハウスと安宿を泊まり歩き、自転車で沖縄本島、宮古、石垣を一周する旅を終えて――気がつくと2年半が過ぎていた。その後僕の沖縄旅は雑誌取材がメインになった。編集者がすべてをセッティングしてくれて、カメラマンも別にいて、僕は身ひとつで行けばいい。泊まりはシティホテル、移動はタクシー。下にも置かぬ大名取材が、いつしか僕の中で「当たり前」になりつつあった。 
 流れる車窓の向こうで、沖縄が凄まじい速さで変わっていくのも感じていた。国際通りで歩行者天国が始まり、新しい道が次々と通り、見上げるようなホテルが続々と立った。アジアンテイストの居酒屋やカフェがたくさんできた、と思ったらすぐ閉じて残骸だけをさらしている……。
 そんな中で、僕の沖縄上陸回数は100回を超えた。その回数分だけ沖縄旅を始めたころの、見るものすべてにワクワクした気持ちが薄れたようにも感じていた。ここ2、3年の沖縄の開発ぶりも、感動の薄れに拍車をかけているのかもしれない。
「久々に車を降りて、歩きたい」
 どのきっかけでそう感じたか、はっきりと覚えてはいない。どこか大通りを通過中、隙間に延びる路地の突き当たりに商店か何かが見えて、行ってみたいとふと思ったのだろう。
 まだ見ぬ沖縄がまだ、大通りの裏側にある。沖縄につ

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