紀元前二世紀の中頃、インド西北部(今のパキスタン・パンジャーブ州など)を中心に広大な地域を支配していたギリシャ人のミリンダ王(ギリシャ名はメナンドロス)と、当時の仏教教団の優れた指導者ナーガセーナ長老との間に、仏教の教理思想の根本をめぐって鋭い対話討論が交わされた。それはギリシャ思想とインド仏教思想の対決でもあった。その結果、王は仏教に帰依した。問答の内容は、古代インド語の一種であるパーリ語で書かれた『ミリンダ王の問い』という大変ユニークな経典や、その漢文訳『那先比丘経』など、現存の資料によって詳しく知ることができる。本書は、右の二人の伝記や時代背景、経典の成立伝播翻訳の歴史、対論の教理思想の解説に、現地踏査の旅行記を付した書である。