戦後65年になる今日、歴史学界のみならず広く国民的にも新しい通史が求められている。岩波の「シリーズ日本近現代史」第一巻から第九巻は、このような要望に答えるために企画・出版されたものである。しかし、明治維新史を中心に日本近現代史を専攻し、通史叙述にも強い関心を持って来た著者は、このシリーズ全巻を検証する。第一巻の「成熟した伝統社会論」、第二巻の「国民国家論」、第七巻の「総力戦体制論」などが批判的に取上げられるが、とりわけ明治維新論や福沢諭吉論などの批判的論述は詳細であり、その論拠と自説とが緻密かつ実証的に展開される。