<ナチ政権下、ホロコーストは如何にして「国民的事業」に成りえたのか。従来のナチ恐怖説、歯車説、状況説などと違うアプローチで捉えた、ナチ研究の新しい地平。> 「『ナチの良心』というのは矛盾した言い回しではない」という一文ではじまる本書は、当時のドイツ人が実際に信じ、ホロコーストを実施するための基盤となった道徳体系が如何にしてナチ社会によって構築されたかをみごとに解き明かしている。それはヒトラーやナチ党のみではない。ドイツ国民自体が、当時の学者や官僚、教育者などの知的エリートの煽動に乗っかり、「民族原理主義」に完全に浸っていった結果として、その実行者となっていったプロセスでもある。 ドイツ全体を覆ったこうした「異質な隣人」=悪という「民族的純血」の信仰の前に、ユダヤ人は排撃と抹殺の運命にさらされていくのである。本書は今日形を変えて吹き荒れる「民族原理主義」を中心テーマとした、ナチ研究の最前線であり、到達点である。