国家の密約と夫の不実。西山太吉氏妻の告白沖縄密約をめぐる情報公開訴訟判決で、ベストセラー『運命の人』のモデル・西山太吉の名誉は回復された。本書は沖縄をめぐる本格ノンフィクションである。
沖縄密約をめぐる二人の女の物語
本書は、沖縄密約をめぐる国の嘘によって人生を断たれた元新聞記者・西山太吉と、国の嘘を認めさせようと願い、動いた人々の記録である。
第一部では、「夫の嘘」と「国の嘘」に翻弄された西山の妻の半生をたどる。
第二部では、国による「過去の嘘」と「現在の嘘」に挑んだ女性弁護士の戦いに光を当てる。西山が「最後の戦い」として挑んだ情報公開請求訴訟をたどる。
情報公開をめぐる法廷で、かつて否定をつづけてきた密約を認めた元外務省高官は、こう語った。
「嘘をつく国家はいつか滅びるものです」。
あの日から、三十八年。 沖縄をめぐる「嘘」のあとを追った。
〈本書の抜粋〉
自宅の電話が鳴った。めずらしく受話器を取ったのは夫(西山太吉氏)だった。
「作家の山崎ですけど」
そう聞いて、夫は同姓の元同僚からだと勘違いした。
「最近、どうしてるんや」
「私は作家の山崎豊子よ。『太陽の子』や『沈まぬ太陽』は読んでないの」
「読んじゃおらんよ」
夫は間髪いれずに言い放った。山崎にとっては屈辱的な返答だっただろう。それでも丁重な口ぶりで、ぜひ(『運命の人』を)書かせてほしいと迫った。
「あなたの人権はぜったいに守りますから」――。
【目次】
〈第一部〉「夫の嘘」と「国の嘘」――西山太吉の妻 啓子
【序 章】十字架
〈ひそかに情を通じ〉新聞記者の夫の罪を問う起訴状の一言。あれから、すべてが狂った。夫はペンを折り、社会から抹殺された。一方で、密約は葬られた。
【第一章】 暗転
受話器をとると、女性の声がした。外務省の事務官だという。「ご主人の帰りは遅いの?」切る間際に、舌打ちが聞こえた。スキャンダルの予感がした。
【第二章】 傷口
事件後、啓子は日記をつづっていた。〈夫婦でいていいのか。果して、夫婦と云えるか〉〈すべてから逃れ得るには、死よりは道はないのだろうか〉
【第三章】 離婚
二十年近くも別居を続けてきた。すでに気持ちは離れていた。でも、なかなか決断できない。生ける屍のようになった夫を前に、啓子は揺れていた。
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