■今、なぜ「匠(たくみ)」なのか 生活に潤いがなくなってきている。現代社会は、大量生産・大量消費システムや科学技術への過信により、生産者と消費者との関係を希薄にし、我々の精神と生活を画一化した。それがマネーに翻弄される社会を作りだし、今日なおその状態が継続している。 本特集では、このような日本の現状を真摯に受け止め、「匠」という切り口から現代の日本社会について考えてみたい。人間の可能性に挑戦し実現しようとしてきた、近代日本のインフラを実現した後藤新平や、江戸期の学匠としての熊沢蕃山や、明治・大正・昭和戦前期の南方熊楠にも言及してみたい。 暮らしの基本には「衣」「食」「住」があり、それを形にし、支えてきたのが「匠」である。これら三つの生きる営みを軸に、「匠」は豊かな日本文化を生み出してきた。「匠」の手仕事から生み出されるものは、人々の日常的な暮らしに潤いをもたらした。人々の暮らしそのものを豊かにするだけでなく、人々にとって「自然」を身近なものにし、人々の物事を捉える確かな眼と感性を培った。ここには、「匠」の丁寧な手仕事に息づく工夫、トータルに物事を捉えようとする世界観が反映されている。このような「匠」の世界は、「芸」でもある。そこには、我々が忘れつつある「遊び」や「ゆとり」がある。 機械に支配されるのではなく、人が人として生きるとはどういうことなのか。「匠」の世界には、現代社会の問題を解く可能性が秘められている。 本特集では、現代の「匠」の方々に、分野を超え、自由に論じてもらいたいと思う。