マイケル・ホワイトの創始したナラティヴ・セラピーは、社会構成主義をベースにしながら、文化人類学、言語学、フェミニズム等を援用した画期的な治療アプローチである。本書には、ナラティヴ・セラピーを初めてわが国に導入した著者による実践と臨床の記録がまとめられている。第1章〜第6章の各章では、冒頭で事例を示しケースに適用した中心的会話技法が解説される。その後、心理療法における会話技術と関連する文学的価値を考察する。さらに、セラピスト側から治療の影響を患者に返礼する実践を試行することで「会話‐文学‐返礼」的視点を用いた記述の厚みづけが図られている。また、巻末にはナラティヴ・セラピー&コミュニティーワーク国際学会への訪問記録の詳述も付録されている。