日本に限らず中国をも含めて、東洋の狐の世界は幻想に満ちあふれている。この奥深い狐の世界に魅せられ、引き込まれる想いを抱いておられる人も多いに相違ない。昔は、暗い夜道を行っても行っても同じところをぐるぐる歩かされたとか、向かいの山の尾根にいっぱい美しい灯が並んだとか、狐や狸にだまされた話を古老がいくらでもしてくれたものだ。私にとってこの本は、年長く自分の中に棲む狐が書かせてくれたもののような気さえする。それにしても、日本の山野に、かつてはあのように跳びはねていた狐、人の身近にぴったりと寄り添ってきたこのふしぎな生き物、狐は、いま一体どこに行ってしまったのだろうか。(著者あとがきより抜粋)