「病気と出会うことで、ぼくは生活や芸術を見直すことができた。感謝こそしないものの、病は神が差し出してくれた贈り物のような気がする」
――喘息、難聴、骨折、「猫いない」アレルギーなど、さまざまな不調や病気、肉体と気持ちの変化に対し、好奇心とひらめき、直感をもって向き合ってきた世界の美術家横尾さん。病気は、時に自身の芸術作品の重要なテーマとなり、病室がアトリエになることもあった。
83歳を迎え、ますます旺盛な創作活動を続ける著者の、幼少期からこれまでの華麗なる病歴とユニークな克服法を一挙公開します。横尾忠則病気関連年表も充実!
「生きるということは、なかなか難しいものだ。ぼくの場合で言えば、生活と芸術の関係がしっかりしていなければ、両者がガタガタになる。そんな両者の中に割り込んでくるのが病気である。病気の侵入で生活も芸術も狂ってしまう場合がある。だから健康体であるということは最重要であると思うが本当にそうだろうか。病気が芸術を進歩させ、病気が人格を向上させてくれることだってあるのではないだろうか。」
「ぼく自身はこの本を書くことによって、ぼくの中の病気の記憶を吐き出す。そして次の病気を迎え撃つなり、追放するなりして、少しでも自然の摂理に従った健康な生き方に戻ろうと考え始めているのである。」
(本文より)
横尾忠則(よこお・ただのり)
1936年兵庫県生まれ。美術家。72年にニューヨーク近代美術館で個展。以降、ヨーロッパ各国での個展開催、ビエンナーレ出品など、国際的に高い評価を得ている。また、東京都現代美術館、金沢21世紀美術館など、国内でも個展を相次いで開催。95年に毎日芸術賞、2001年紫綬褒章、06年日本文化デザイン大賞、08年に小説『ぶるうらんど』で泉鏡花文学賞、11年に旭日小綬章、同年度朝日賞、15年に高松宮殿下記念世界文化賞など、受賞・受章多数。12年、神戸に横尾忠則現代美術館、13年、香川県に豊島横尾館開館。16年には『言葉を離れる』で講談社エッセイ賞を受賞。
※本書は『病の神様』(文春文庫)を再編集し、書下ろしなどを加えたものです。