近代的な「統治の技術」を理論化したマキァヴェッリ。「永遠の空間の無限の沈黙」を畏怖した信仰者パスカル。ふたりは離れた位置にありながら、緊密につながっていた。歴史家ギンズブルグは細部を凝視することで浮かび上がる徴候を手がかりに、政治神学の隠れた歴史へと近づいていく。
解読はアリストテレスに由来する中世神学の「決疑法」から始まる。規範や規則を示したのち、nondimanco(それでも)という接続詞を置くことで、例外が優先される場合を提示する論法である。「それでもnondimanco」は、神学においては奇蹟を、政治においては例外状態をひらく。
ルネサンス期、「統治の技術」を編み出した行政官マキァヴェッリは『君主論』等で決疑法を利用した。パスカルは対抗宗教改革期にイエズス会士たちが実践していた決疑法の容赦ない批判者でありながら、マキァヴェッリの熱心な読者、見えざる後継者だった。
父の蔵書、検邪聖省の議事録、ガリレオの手紙、草稿への書き込み、ミケランジェロの工房、修道院の文書庫、図書館──著者は書物の時空をこえ、埋もれた資料と当事者たちの関係を発見する。見えないインクで行間に書かれていることに目をこらす。
本書が照らし出すのは、権力と宗教の言論において制約を可能性に変えようとした者たちの営為である。最後に、現実に歴史を変えようとした者たちにかんするランペドゥーサの小説『山猫』を論じ、星辰の永遠性と人間の歴史が省察される。