巨樹と対峙し、巨樹のもつ生命力を写し込んだ入魂の写真群。
東日本大震災/福島原発事故を契機に、九州・沖縄に現存する巨樹を尋ね歩いて十年。
天変地異や戦争にも耐え、何百年、何千年と同じ場所に佇み、
人々の喜怒哀楽をずっと見つめてきた歴史の証言者・巨樹。
その千姿万態、それぞれの遥かなるいのちの旅を伝える写真集。九州・沖縄の巨樹100樹を掲載。
■倉本聰氏序文「巨樹に聴く」より抜粋
コロナ騒ぎで人に逢うなと命じられ、二ケ月近く山ごもりの日々を過しているが、全く一日として苦痛を感じない。この写真集を、そしてそこにいる巨樹たちと毎日対面して、至福の時を過している。まずそのことを榊氏にお伝えし、感謝と敬意の念を捧げたい。……
巨樹に逢う。古木にお目にかゝる。
すると僕の気はピシッと引き締まる。頭が垂れる。祈りたくなる。何かその樹から教わりたくなる。それは彼らが大先輩だからである。
考えてもみて欲しい。
樹齢五百年の樹は室町から安土の頃萌芽した樹である。織田信長とほぼ同年である。樹齢千年の樹は平安朝の樹である。彼らはその頃からこの世に生きてきた。そしてその間の歴史を見てきた。彼らの樹皮の下にかくされた細胞と一つ一つにはその間に蓄積された膨大な知識と見識が、ぎっしり埋めこまれているにちがいない。そして思索も哲学も。
彼らの枝の曲がり具合。肌に刻まれた無数のしわ。繊維のねじれ具合。付着した苔、地位類。それらを見ていると彼らの生き抜いてきた時の重みが、否応なく僕らを圧倒する。……
古木巡礼をつづけているが、齢とともに体が衰えてきて中々山に入れなくなった。それでも巨樹に恋し、巨樹に逢う為の巡礼を続けている。
巨樹たちの呟く囁きを、必死で聴こうと耳を傾ける。