日本で紹介されることがなかったベルナルド・ベロット(1722~1780)の主要な景観画を網羅的系統的に収集し,その実景を訪ね,景観デザインの観点から整理するという新しい試みを実現している。 まず,ベロットが辿った当時のヨーロッパの首都,フィレンツェ,ヴェネツィア,トリノなどの北イタリアからドレスデン,ウィーン,ミュンヘン,ワルシャワの足跡を逐一渉猟し,図版によって109点の実景を詳細に紹介している。 また,ベロットは後期になるにつれて,その構図の関心がパノラマ的なマクロと都市景観に移り,複数の視点場からシンボリックな街並みを描くようになった。そのことが都市空間を立体的に再現可能にしていることを指摘している。 ついで,ベロットがキャンバスを立てたであろう視点場は,描いた対象や景観タイプを問わず共通しており,視線のネットワークによって都市の景観構造が浮かび上がってくることなど,現代の景観まちづくりに寄与できる指標を確立している。 最後には,建築物,街並みをリアルに描いているので,現代でもワルシャワ市街地などの修復に活用されていることを指摘している。 本書は,18世紀の面影を残しているヨーロッパの代表的な歴史的街並みを独自の視線を通して調査したもので,新たな観光スポットのガイドブックとして活用できる。また,風景画に関心をお持ちの方や美術愛好家の方々にとっても,風景絵画と実景をカラーで紹介しており,関心をよぶに違いない。地方公共団体の都市デザインや景観計画担当者,さらには研究者,建築家にとっても,アーバンデザインの導きの案内書になるであろう。