柄谷は、コミュニケーション=交換を、共同体(制度)のなかにおいてでなく、共同体と共同体の《間》に見ようとする。すなわち、なんら規則を共有しない《他者》との非対称的な関係に、コミュニケーション=交換の基底を見出している。規則が共有される共同体の内部では、私と他者は対称的な関係にあり、したがって私と他者の対話は、自己対話(モノローグ)にすぎない。柄谷は、これに対して「態度の変更」を敢行する。それは《他者》と向かいあう関係においてものをみることだ。この「態度の変更」は、彼自身のこれまでの仕事に対する転回であると同時に、あらゆる知の領域に転回をせまるだろう。『探究』は、柄谷行人の代表的な仕事となるだろう。