「あいつはな、誰よりも悠然と歩くんや」時代の大きな曲がり角となった70年代の京都に「河原町のジュリー」と呼ばれる有名なホームレスがいた。無数の視線に晒されてもいつも目抜き通りの真ん中を歩き、商店街の一等地で眠る男。ガラス玉のような目で空を見上げる彼は、いったい何者なのか。なぜこの街にやってきたのか。交番に赴任したばかりの新人巡査・木戸が最初にその名を聞いたのは、ひったくりにあったと交番に駆け込んできた女性からだった。彼女は自分のネックレスを「河原町のジュリー」がひったくっていったと言うのだが――。京都国体の開催を機に、街から「異物」が排除されようとしていく中で、彼の伝説は生きていた。かつてこの街で彼と人生を交錯させた人々は、やがてその「真相」を知る。人間の自由と尊厳を昭和の時代と令和の現代に浮かび上がらせ、人が「物語る」ことの意味を問うた感動作。
目 次
プロローグ
第一話 花の首飾り
第二話 坂の向こう
第三話 夜の猫たち
第四話 鳥の名前
第五話 熱い胸さわぎ
第六話 ジュリーと百恵
第七話 黒と白の季節
第八話 四十年後
第九話 真珠貝
第十話 再会
エピローグ
あとがき